イジワルな恋人
「お客様」
一呼吸おいてから、ゆっくりと口を開く。
「佐伯は、本日はお休みをいただいてます。
なので本当に申し訳ないですが、また後日出直して頂けないでしょうか。
お客様がいらした事は、佐伯に伝えておきますので……」
逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら、でも強気に言い切った。
震える手を握りしめる。
目を逸らしたら負ける気がして、目の前の男を見つめ続けた。
そんな気持ちが伝わったのか、男はふっと笑みをこぼす。
「じゃあいいや」
男の言葉に、あたしと香奈ちゃんは安心して胸をなでおろす。
後ろにいた香奈ちゃんの安堵のため息が、背中越しに聞こえてきて、あたしも表情を緩ませた。
「そのかわりさぁ」
「……っ?!」
男が続けた言葉に顔をあげると、突然腕を掴まれる。
「あんたがつき合ってよ」
笑いながら見つめてくる男を目の前に、その意味をなかなか理解できなかった。
……『つき合ってよ』って、恋人になるってこと?
それともちょっと買い物に、くらいの意味……?
でもこのケースは……。
色々な事を頭に巡らせているあたしに、男が覗き込むように声を掛ける。