イジワルな恋人
「ね、決まり」
「い、たっ……」
小さく抵抗すると、途端に手首の辺りを握っている男の力が強くなった。
掴まれた手首に、憎悪を感じて鳥肌が立つ。
亮と付き合い始めてから治ったと思ってたけど……。
やっぱりダメだ……。
男の人に触られると気持ち悪い……。
心臓の音がどんどん速くなって、怖さで身体が強張る。
「あれ、震えてんの? 可愛い~」
怯えを隠せないあたしを見て、男が満足気に顔を緩める。
目の前の男の顔に、触られてる腕に、背筋が凍る。
店長に怒られるけど、こうなったら……っ。
震える身体を奮い立たせて、合気道の技を使おうとした瞬間だった。
「……わりぃけど」
亮の声が後ろから聞こえた。
「こいつ、男苦手だから、あんま触んないでやってもらえます?」
一応、敬語なのに、そんな事を忘れさせる亮の威圧感に、男が少しひるんだのがわかった。
何も言えなくなった男の手から、あたしの腕を抜き取る。
「……ってのは建て前で」
亮があたしの手を握り直して、男を見据えた。
「……俺の女に触ってんじゃねぇよ」
怒鳴ったわけでも、睨みつけたわけでもないのに……。
不敵に緩んだ亮の顔に見据えられて、男は悔しそうな表情を浮かべながらも、黙って足早に店を後にした。