イジワルな恋人
男が出て行った事を確認した後……、亮の怒りの矛先があたしに向けられる。
「なんですぐ呼ばねぇんだよっ!」
珍しい亮の大声に、身体がすくむ。
「……だって、そんな時間なかっ」
「……他の男に触られて嫌なのは、おまえだけじゃねぇんだよ」
「え……」
「それくらい、分かれよ」
言い訳を探していたあたしは、亮の言葉に口を結ぶ。
その一部始終を見ていた香奈ちゃんが、驚いた表情をあたし達に向けた。
「先輩……桜木さんと付き合ってるんですか?」
すっかり香奈ちゃんの存在を忘れていた亮とあたしは、香奈ちゃんの言葉に勢いよく振り向いた。
返事に困っていると、亮が小さなため息をつく。
「……今見た通りだよ。
俺はバレてもいいんだけど、こいつはバイト続けたいみたいだから黙っててもらえる?」
あまりにもはっきりと言い切った亮の横顔が、こんな時なのに、すごくかっこよく見えて……。
少しの間、その横顔を見つめていた。
そして、目を移すと、香奈ちゃんの笑顔が視界に映る。
「もちろんですよ! あたし、これからも先輩と一緒バイトしたいですもん。
絶対に秘密にします」
「香奈ちゃん……ありがとぅ」
安心して笑顔を浮かべると、それを見た亮があたしの頭をポンポンと撫でてから持ち場に戻る。