イジワルな恋人
亮の背中を見ていると、香奈ちゃんが小声で話しかけてきた。
「桜木さんって、見た目と違って優しいんですね!
なんか見てるだけで先輩の事大切にしてるのがわかりますよー。すっごいお似合いだし!」
香奈ちゃんの言葉に、あたしは恥ずかしくなりながら顔を緩ませた。
「……でも、付き合ってるなら、なおさら嫌ですよね」
さっきまでのトーンとはまるで違う声で言われて、少しだけ戸惑う。
だけど、佐伯さんの事を指している事が分かって……素直に頷いた。
「……うん」
「あたしなんかより、先輩の方がずっと嫌な思いしてたんですね……」
香奈ちゃんの沈んだ表情を見て、うっかり本音を言っちゃった自分に気付く。
落ち込んだ空気を明るくしようと笑顔を向けた。
「そんな事より、仕事しなくちゃね! あたしソファー席の掃除が途中だったんだ。
香奈ちゃん、何かあったら呼んでね」
香奈ちゃんの笑顔を見てから、急いで持ち場に戻った。