イジワルな恋人


その日は久しぶりに佐伯さんと同じシフトになった。


「あ、亮くん! ずっと会えなくて寂しかったぁ」


相変わらずの佐伯さんに、呆れながらも少しだけほっとする。


こないだみたいな態度をとられると、その方が不安になる。

数日前に店長から受けた注意も、もう全く効果はないみたいだった。


フリーターの佐伯さんは、午後から入っているハズなのに、洗い物やらドリンク補充やら、済まされていない仕事がたくさん残されていて……。


その様子に、ため息をもらしつつ洗い物を始める。

グラスの数が半端じゃなくて、佐伯さんが一度も洗ってないことが見るからにわかった。


……よくグラスが足りたな。よかった、平日で。


「あたし、手伝います」


声をかけてきてくれた香奈ちゃんに、笑顔を返す。


「ありがと。じゃあ拭いてってくれる?」

「はい」


1人でやるとイライラしてしまう事も、香奈ちゃんがいる事で気持ちのトゲトゲが丸くなる。

佐伯さんへの不満は消えないけど、頑張ろうって気持ちに切り替えられる。


「あれー、受付誰もいないと思ったらおしゃべり中?」


後ろからイヤミを言ってきたのが誰なのか……、広がる香水の匂いですぐにわかった。


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