イジワルな恋人
……―――何、あいつ。
あたしはムカムカする気持ちに桜木先輩の背中を睨んでから、鞄を持って立ち上がった。
「梓、ごめん。先帰ってて」
呆然とする梓にそう言ってから、教室を出る。
廊下には、小さくなった桜木先輩の背中があって、あたしは走ってある程度まで距離を縮める。
「ちょっと!」
……大声で言ったつもりだったのに。一向に振り向く気配を見せない桜木先輩に、口を尖らせる。そして。
「同時進行男!」
イライラした気持ちを込めて言うと、桜木先輩はやっと足を止めて振り向いた。
「……おまえ、それはやめろ」
「一回で振り向かないそっちが悪いんだよ。
……何の用? ここでいいでしょ」
「聞かれちゃマズい話なんだよ。……お互いにな」
意味深に笑う桜木先輩に首を傾げる。
なんであたしまでマズいの? ……昨日の事?
それでもついて行く必要なんかないと思うけど……。