イジワルな恋人
桜木先輩に限っては絶対にそんな事言ってこないって思っていただけに、信じられなかった。
「……付き合うっつっても、フリだけどな」
「……フリ?」
続いた言葉に、ようやく声がでた。
「そ。俺の親、病院経営してて金持ってるし、俺、見た目もこんなんだろ?
色々と目立つ要素が揃ってて面倒なんだよ。
だからおまえが彼女のフリしてくれれば変な女も寄ってこねぇだろ?」
「……10人同時進行してるなら、あと何人か増えるくらい問題ないんじゃない?」
思った事を真面目に聞くと、桜木先輩は呆れたようにため息をついた。
そして、軽く笑う。
「……つぅか、そんなんデマだし。
噂なんか真面目に信じてんじゃねぇよ」
「……」
いつも不機嫌な表情ばかりを見せる桜木先輩の笑顔。
普段の大人っぽい表情の中に混じるやんちゃなあどけなさに、思わず見入ってしまう。