イジワルな恋人


「……ごめんなさい。

あたし……、亮じゃなきゃダメなんです……」

「泣き出すほど不安なのに? 

……悪いけど、泣いてる水谷を前にして引き下がるなんてできない」


中澤先輩が、険しい表情のままあたしの手を握った。


「違いますっ。これは……、」

これは……、何の涙……?


溢れ出す涙が何の感情なのか、自分でも分からない。


亮への想いが溢れたのか、

亮が話してくれない事が悲しいのか、

それとも、中澤先輩の気持ちに応えられない事への罪悪感なのか……。


「俺なら、水谷が不安になってるなら会いにくるよ。

……好きな子が泣いてるのに会いにもこないような男が……」


先輩が、言いかけて止めた。

不思議に思って見上げると、その視線はあたしより遥か後ろに向けられていて……。



――ガシャンッ!!


突然、静かな道に、響き渡るほどの大きな物音が聞こえた。


「……っ」


振り返ろうとした瞬間……、

後ろから強く抱き寄せられた。



中澤先輩に握られていた手も、そのはずみで離れる。



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