イジワルな恋人


信じられない思いでいっぱいだった。


……だけど、確かに、あたしが包まれたのは、亮の香りで。

感じるのは、亮の体温で。


背中から、忙しく動く心臓の振動が伝わってくる。


亮の乱れた息が、あたしの肩に落ちる。

熱い身体が、あたしを後ろから抱き締めていた。


「……っ……、」


話しかけようとして口を開いたのに、声がうまくでない。


亮も何も言わずに、息を整えながら抱き締めていて……。

出ない声に振り向こうとして、ふと、後ろにある自転車に気付いた。


乗り捨てたように倒れている自転車にハっとする。

さっきの、音は……。


『亮なんか偉そうに車で待ってるだけ』

『あたしに会うために自転車を走らせて来るなんて事、きっとしない』


……あたしに、会いにきてくれたの? 

そんなに息が切れるほど急いで? 

普段乗らないくせに、自転車に乗って?


あたしのために―――……?


瞳から、たくさんの涙が溢れた。


そして、言葉にならない想いに、

強く、強く、亮の腕を抱き締めた。







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