イジワルな恋人
【第十六章】 不安定な気持ち
【亮SIDE】
「ねぇ、この自転車どうしたの?」
俺のこぐ自転車の後ろに乗った奈緒が聞いた。
かなり久しぶりに乗った自転車は、じめじめした空気を切っていくようで悪くない。
「途中に置いてあったのを借りた」
「え?!」
驚いた奈緒に言葉を続ける。
「しょうがねぇだろ。……おまえ、途中で電話切るし。
北村は私用でいねぇとか言うし、他の奴に車出させるのも面倒くせぇし、走って行ったんじゃきりがねぇし」
「……もう一度電話してくれればよかったのに」
「電話とか、あんまり好きじゃねぇんだよ。なんかじれったいし」
電話を切られて、すぐに家を出た。
電話をかけ直すよりも……、直接会いたかった。
不安そうな声の原因が佐伯の事だっていうのは、気付いてたから。
……だけど、じゃあどうしろっていうんだよ。
会いに来たところで、俺には、他の方法が思いつかない。
佐伯を黙らせないと……、奈緒が傷つく。
奈緒を守りたいだけなのに……。
全部が、うまくいかない。