イジワルな恋人
渡り廊下から校門まではそんなに距離もなかったけど、靴も履き替えずに校門へ向かって走った。
佐伯さんが誰に用事があるのかはわからない。
でも、どうしても言いたい事があって。
「あれ、水谷さん。ひさしぶりー」
少し呼吸を整えてから佐伯さんに近づくと、あたしに気付いた佐伯さんが軽く笑う。
「……亮に聞きました。亮に出した条件の事。バラしたいならバラして下さい」
挑戦的言うと、佐伯さんがにっこり笑いながら答える。
「あっそぅ。……バイト、わざと重ならないようにしてるみたいだからわざわざ来たんだけど。
じゃあお言葉に甘えて言いふらそうかなぁ」
悪びれなく笑う佐伯さんを、キっと睨み付けた。
「……なんのためにそんな事してるんですか? なんで……亮が本気で好きだから?
だから、あたしが気に入らなくて?」
「そんなわけないじゃん。本気で好きとかありえないし。
……ただ亮くんが彼氏なら自慢できるし? 家もお金持ちだし。
一度自分のモノにしたいだけ。あたし、欲しいモノが手に入らないのって我慢できなくて。
……でも、水谷さんの事は、正直気に入らないけどね」
タバコをくわえて火をつける佐伯さんを、手をきつく握りしめながら見ていた。
「……最低」
「亮くんにも言われたー」
佐伯さんが吸ったタバコから、白い煙があがる。
その煙の先で、佐伯さんが微笑んだ。