イジワルな恋人
……亮の家まで何が一番早い?
電車……?
タクシーがつかまれば……。
雨の中を傘もささずに走って校門を出たあたしの目に、亮の車が飛び込んできた。
運転席で、北村さんが優しく微笑む。
あたしが近づくとドアが開けられて……戸惑いながら乗り込んだ。
「北村さん……、なんで……?」
「亮様が、奈緒様はどうせ追ってくるだろうから待ってろと……。
行き先は、桜木宅でよろしいんですよね?」
気持ちを見透かしたような北村さんに苦笑いしながら頷いた。
北村さんに渡されたタオルで身体を拭きながら……流れる景色を眺めた。
大粒の雨が、窓ガラスに勢いよくぶつかってはじける。
そのせいで景色は歪んでいて……なんだか幻想的だった。
全部が、嘘みたいだった。
……亮が隣にいない車が、淋しかった。