イジワルな恋人
案内された部屋には、誰もいなかった。
「こちらでお待ちください」
「はい」
感じのいい女の人が、あたしの前に紅茶を置いて部屋から出ていく。
紺色の高そうな絨毯に、黒い皮のソファ。
大きな窓がいくつもある周りには観葉植物が置いてあって、部屋には開放感があった。
青々とキレイな葉っぱを見ながら小さく息を吐く。
少し緊張している自分を落ち着かせる為に。
しばらくして……ノックが聞こえて、ドアが開いた。
「待たせて悪かったね」
部屋に入ってきた男性に、あたしは立ち上がって頭を下げる。
「初めまして。昨日は突然連絡してしまって申し訳ありませんでした。水谷奈緒です」
「ああ、楽にしてください。
私もあなたとは一度お会いしたかったんです。水谷さん。
北村から話は聞いてましたが、聞いていた通り立派なお嬢さんですね。
……紹介が遅れました。桜木壮一です」
そう微笑んだ顔は、亮にそっくりで……
思わず見入ってしまうほどだった。
だけど、今日来た目的を思い出して、桜木さんがソファに腰掛けると同時に頭を下げた。
「突然、すみません。どうしても今回の亮君の停学について謝りたくて……」
そんなあたしを見て、桜木さんは穏やかに笑う。