イジワルな恋人


「そうだと思いましたよ。亮は……聞いても理由を言わなかったので何かあるんだろうと思ってました」

「本当は私が停学になるべきところを亮くんがかばってくれたんです。

そのせいで出席日数が足りなくなって……先日、亮くんから今学期で学校をやめるって聞きました。

……私のせいで、本当に申し訳ありません」


頭を深く下げたままでいると、桜木さんが優しく言う。


「頭をあげてください」


ゆっくり頭をあげると、優しく微笑んだ桜木さんの顔があった。


その笑顔はやっぱり亮に似ていて……いつの間にか、緊張は解けていた。


「謝る必要なんかありませんよ。私は……逆に感謝してるぐらいです」


桜木さんが、紅茶を一口飲んで穏やかな声で話し出した。


「亮の学校での態度には私も頭を痛めてました。

でも、幼い頃に無理矢理私が引き取ってしまった事を考えると、何も言えなくて……。

自分の身勝手な行動から亮を振り回してしまった事実に、後ろめたさを感じていました。

亮の素行は、そんな私への無言の反抗なのかもしれないと思うと……何も言えなくて。


だから、病院を継いで欲しいと思いながら、そういう話どころか、日常の会話さえ上手くできずにいました」


桜木さんが顔をあげて、あたしに視線を移す。

患者がいないフロアは、とても静かで物音一つしなかった。


そんな中、桜木さんの声だけが低く部屋に響く。



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