イジワルな恋人




「だけど、先日初めて亮から将来の事を話されました。

継ぐ意志はあると……。亮は何に関しても無気力だったのに、大学に行きたいと自分で言ってきました。

そう言ってきた亮に、無気力なんて言葉はなかった……。

あなたのおかげです」


桜木さんの言葉に、慌てて首を振った。


「いえ、あたしはっ……」

「いいんです。お礼を言わせてください。

亮からも聞かされましたが、どのみち留年だったそうですし、学校をやめるっていう亮の考えにも納得してるんです。

なので、水谷さんも責任は感じないでください。

……それに、将来の事を考え始めたのも、あなたの事がきっかけだと思いますよ」

「え……」


意味深な笑みに、首を傾げる。


「迎えがきたようだ」


桜木さんがそう言った途端……、

廊下を早足で歩く足音が聞こえて、次の瞬間にはドアが勢いよく開いた。


「やっぱりな……おまえは絶対親父に会いにくると思った」


呆れているのか怒っているのか分からない亮に、驚いた後……気まずくなって目を逸らす。


「ほら、学校行くぞ」

「あ、うん……」


桜木さんに深く頭を下げてから、部屋を後にした。

あたしと亮を見て、桜木さんが優しく微笑んでいた。



< 420 / 459 >

この作品をシェア

pagetop