イジワルな恋人
「だけど、先日初めて亮から将来の事を話されました。
継ぐ意志はあると……。亮は何に関しても無気力だったのに、大学に行きたいと自分で言ってきました。
そう言ってきた亮に、無気力なんて言葉はなかった……。
あなたのおかげです」
桜木さんの言葉に、慌てて首を振った。
「いえ、あたしはっ……」
「いいんです。お礼を言わせてください。
亮からも聞かされましたが、どのみち留年だったそうですし、学校をやめるっていう亮の考えにも納得してるんです。
なので、水谷さんも責任は感じないでください。
……それに、将来の事を考え始めたのも、あなたの事がきっかけだと思いますよ」
「え……」
意味深な笑みに、首を傾げる。
「迎えがきたようだ」
桜木さんがそう言った途端……、
廊下を早足で歩く足音が聞こえて、次の瞬間にはドアが勢いよく開いた。
「やっぱりな……おまえは絶対親父に会いにくると思った」
呆れているのか怒っているのか分からない亮に、驚いた後……気まずくなって目を逸らす。
「ほら、学校行くぞ」
「あ、うん……」
桜木さんに深く頭を下げてから、部屋を後にした。
あたしと亮を見て、桜木さんが優しく微笑んでいた。