イジワルな恋人
【第十九章】 幸せの約束
亮は学校に高校認定試験のことと学校退学の事を説明して、夏以降、あまり登校しなくなった。
勉強のために部屋にこもる日が続いていた。
「奈緒、今日も桜木先輩元気?」
「うん……多分。今、追い込みしてるみたい」
掃除中の教室、話しかけてきた梓に、少しうつむいて返事をする。
あたしの曇った表情に気づいたのか、梓が心配そうに覗き込む。
「……会ってないの?」
「ううん……一週間前くらいに会ったよ」
普通の恋人なら……、週に一度のペースでも普通なのかもしれない。
でも、それまで毎日のように亮と会っていたあたしにとって……
一週間はとても長く感じた。
……だけど、頑張ってる亮の事を考えるとなかなか会いに行けなかった。
「ね、今日、武ちゃんも一緒に桜木先輩のうちに行こっか」
梓は少し前から関先輩と付き合い始めていた。
『武ちゃん』っていう呼び名に、少し笑いながら首を横に振る。
「ううん、邪魔しちゃ悪いし」
「……それは武ちゃんが騒がしいから?」
「……違うよ」
否定したのに、梓が頬を膨らませて見せる。
「もー、いいと思うけどなぁ。騒がしいけど楽しくてさぁ」
口を尖らせる梓を、笑いながらなだめた。
いつも通りの梓とのおしゃべりも、いつも通りの教室も。
何も変わっていないのに……。
『亮がいない』
それだけで、何かが足りない……。
全然足りない。