イジワルな恋人



もう一つの理由は、親父の経営する総合病院にある。

高級車ってランク分けされる車での毎日の送り迎えが原因で、俺の家柄はあっという間に学校中に広がった。

そしてその噂は、見た目だけでも注目を浴びていた俺の人気を後押しする形になった。

無断で俺の隣に座って弁当箱を開けた由利を横目に、立ち上がって、屋上ドアに向かって歩き出す。


「……俺、手作りとか食べないから」

「えっ、亮っ! 待ってよぉ! あたし、せっかく亮のために作ってきたのにっ」


後ろから由利の声が響いて、俺は表情を歪めた。

……うぜぇ。俺に取り入ろうとして勝手に作ってきたんだろぉが。

屋上に由利を残して足を進めると、ずっとコンクリートに寝ていた身体が少し痛みを覚えた。

穏やかに吹く春の風を心地よく感じながらドアノブに手をかけた時―――。


『……付き合ってくれない?』


ドアの向こうから男の声が聞こえた。

屋上のドアは上3分の1くらいがガラス張りになっていて、そのドアに背中を向けて1人の男が立っていた。


『入学してきた時からずっと見てたんだ』


男の言葉に、俺は眉を潜める。

……くだらねぇ。勝手にやってろ。つぅか、さっさと終わらせてどけ。


『……ありがとうございます』


だけど、聞こえてきた女の澄んだ声に、少し興味が湧いて、もう一度中を覗き見る。


……―――瞬間。俺の目が、釘付けになる。

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