イジワルな恋人
「んー……どうだろ。とりあえずそういう事だから、また明日ね」
背中を向けて歩きだした奈緒が、急に止まって俺の場所まで戻ってくる。
そして、俺の前に座ると、鞄を見下ろして笑顔を浮かべた。
「これ、つけてきてくれたんだ」
「……おまえが無理矢理押し付けるからだろ」
「ありがと」
鞄にぶら下がるキーホルダーを、奈緒の指先が触れて揺らす。
奈緒から縮められた距離に少し戸惑う俺なんか気にしない様子で、奈緒は笑顔を向けてから、屋上を後にした。
俺は、奈緒がドアを閉めたのを確認してから横になる。
次の授業化学だろ?
……ますます出る気しねぇ。
化学の担当は、去年教師になったばかりの賀川 真一とかいう男。
他の教師が俺を敬遠する中、賀川だけはガキ扱いしてくるからか、なんとなく気に入らねぇ。
……あと10ヵ月もあいつが担当かよ。
重いため息をつきながら空を見上げていると、屋上のドアが勢いよく開けられる。