イジワルな恋人
「……奈緒、……大丈夫か?」
俺の胸に顔をうずめたままの動かない奈緒に、遠慮しながら話しかける。
思わずキスしちまったけど……。
こいつ男が苦手なんだよなぁ……。
しかもあんな目に遭った直後だし。
「……ごめんな、でもおまえが―――……」
続きそうになった言葉に、途中で声を止めた。
『おまえが―――……』
俺……何言うつもりだったんだ?
『おまえが……、可愛かったからつい―――……』
……ありえねぇ。
今まで感じた事のない感情に、言った事のない言葉。
その事実に戸惑いが隠せなかった。
キスなんか、自分から“したい”と思ったことなんてなかった。
あくまでも、通過点の一つでしかなかったのに……。
いや、マジありえねぇし……。
顔を歪ませて目を落とすと、奈緒が俺の身体にすっぽり包まれるように座り込んでいる。
その手には、俺の制服がしっかりと握られていて。
そんな奈緒を見て……、優しく抱き締めていた。