イジワルな恋人
「もぅ! 信じられない!」
帰りの車の中で奈緒の怒りが爆発していた。
「……だから悪かったって言ってるだろ」
あの後、俺が奈緒を抱き締めた直後。
奈緒は思いっきり、力の限りで俺を突き飛ばした。
「……亮のばか! 変態!」
真っ赤な顔をして涙を浮かべた奈緒が怒鳴る。
「……でもおまえからしてきたんだろ?」
悪びれずに言うと、奈緒ますます赤くなって怒ってんだか困ってんだか分からない表情を浮かべる。
「それはっ、……そうだけど、でもあたしはお礼の代わりにほっぺにしただけだもんっ!
亮みたいなあんなキスなんか……」
自分で言った言葉に、キスの事を思い出してたのか、奈緒は慌てて目を逸らした。
「……キスって俺がしたみたいなやつを言うんだよ」
からかってやろうとして言うと、奈緒は思った通りの反応を返す。
「……うそ!? そんな訳ないもん!」
「いや、本当に。おまえが知らないだけだろ?」
奈緒は悔しげな表情を浮かべた後背中を向けて、そんな奈緒の姿に俺は口の端をあげて笑った。
「……帰るぞ」
俺が歩きだすと、奈緒は膨れながらも俺の後ろについてきて。
後ろを歩く奈緒に、また顔を緩ませた。