イジワルな恋人
「おかえり」
静かに玄関を開けると、おばあちゃんの声が聞こえてきて……。
「おばあちゃん……、もう起きてたの?」
リビングでお茶を入れているおばあちゃんに、あたしは呆れながら言う。
「だって昨日の朝になって、急に明け方までバイトになったって言うから……。心配じゃない。
……お金ならあるんだから、そんなに奈緒ちゃんがバイトしなくたって……」
「いいの! あたしが好きでしてるんだから。
朝ごはんにするでしょ? 手、洗ってくる」
おばあちゃんの言葉を遮って、洗面所に向かう。
冷たい水を出しながら、目の前の鏡を見つめた。
鏡の中には……、中学一年のあたしの姿が映る。
……あたしも、この家も。あの時のまま時間が止まってる。
わかってる。あたしが進まない限り、ずっとこのままだって……。
だけど……、
あたしには時計の進め方がわからない。
あたしの時計の電池は、三年前のあの火事で、きっと壊れたんだ。
鏡の中の少し幼い自分が、静かに涙を流した。