その手に触れたくて
「鳴ってるよ」
一向に出ない隼人にそう言って、あたしは隼人に目を向ける。
「めんどくせ」
隼人は、あたしの身体に巻きつけていた腕を離すと、テーブルにあった携帯を取り耳に押しあてた。
「はい」
『今から会えない?』
至近距離から話している所為か、聞きたくもないのに相手の声は聞こえてきて――…
それが彼女だと分かったのはすぐだった。
分かった瞬間、一気に気分が悪くなったかのように頭が痛くなり始める。
でも、邪魔なのはあたしで、急いでベッドの下に落ちてある制服を掴んで身に付けた。
「あー…、わりぃ。今は無理。――あ?…あぁ…」
隼人だけの声を耳にしながら立ち上がったあたしの腕を隼人は掴む。
掴まれてすぐ隼人に目を向けると隼人は、
“待て”
と、口パクであたしに伝えてきた。
でも、そんな事を言われて待つようなあたしではなく、反対側の手で隼人の手を離し、急いであたしは隼人の家を出た。
苦しい。胸が張り裂けそうなくらい胸が苦しい。
外に出るとすっかり雨は止んでいて、隼人の家から全く分からない道のりをあたしは走った。