その手に触れたくて

話を途切らせ途中で声を上げるあたしに夏美は少し驚いた表情であたしを見た。


「ど、どうしたの?」

「教科書、返してもらってない!」

「誰に?」

「分かんない」

「はぁ?美月、知らない奴に教科書貸したわけ?」


夏美は呆れた様にあたしを見てサンドイッチにかぶりついた。

すっかり、すっかりそんな事、忘れてた。

休み時間になると夏美と話してたし、そんな教科書の"き"の字も頭になかったよ。


「どうしよう…。パクられたかも」

「教科書パクる奴なんて居ないでしょ」

「だって怖かったし…」

「何?男?」

「うん。1時間目、始まる前に貸した」


そう言うと夏美はサンドイッチにかぶりつこうとしていた口を離し目線をあたしに向けた。


「1時間目、あたし英語だったよ」


そう普通に言ってきた夏美ハッとした。

1時間、英語だったの…夏美。

だとしたら…


「じゃあ夏美のクラスの人に貸したんだよ」

「だから誰に?」

「分かってたら言ってるよ。ホントに見た事もない男だった」


夏美は首を傾げながら少し眉を寄せる。


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