その手に触れたくて

その呟かれた言葉はあまりにも理解がしがたい事で、あたしは思わず目を見開いた。


「誰が?」


誰がって自分でも、今、誰の話をしてんのか分かってんのに、あたしはそう声を出す。



「誰がって、隼人と彼女」


案の定、夏美から吐き出された言葉はあたしが思っている通りで、未だにあたしの頭はその内容についていけなかった。

言葉を失うあたしに対して夏美の口は動いていく。


「3日前さ、あたし寝坊して遅刻したんだ。着いた頃には1時間目が始まっていて、昇降口の所で隼人とあの女が話しているの聞いたんだ」

「……」

「どう言う事って…。女が必死で問い詰めた後、隼人が昨日言った通りって。初めなんの事かさっぱり分かんなかった。でも、女が別れる気はないって言った後に理解した。それって、隼人から切り出した別れ話って事でしょ?」


隼人が切り出した別れ話?

なんで?なんで急に隼人は別れを切り出してんの?

原因はあたし?確か夏美は3日前って言った。

3日前って言うと、あたしと隼人が…。だとしたら十分あたしの所為になる。

あたしがあの時、泣いていたから?だから隼人はこう言う結果にしたの?


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