その手に触れたくて

分かんない。分かんないよ…


「隼人は…いつから来てないの?」


声を出すのも疎らにならないあたしに、


「女と言い合ってた後から来てないよ」


夏美はあっさりと答えた。


「そう…」

「何?どうした美月?」


夏美は顰めていた顔から明るい表情にコロッと変え、あたしの顔を伺う。

何もなかったかの様にあたしは夏美に軽く首を横に振る。


「なんでも…。もう教室に行くね」

「あっ、う、うん」


夏美は戸惑った様に何回か頷き、軽く手を振る。

その夏美から視線を逸らしてあたしは自分の教室へと足を進めた。


あたしが考えてた間に何が起こってたのか分かんない。

きっと隼人が学校に姿を現してない間、先輩はずっと隼人の教室に来ていたんだと思う。

だから夏美は、あんなにうんざりした声とため息を何度も吐き捨てていたんだと思う。



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