その手に触れたくて
授業中、意識が凄く遠くに飛んでいるみたいに何をしたのかも、何を話していたのかも覚えていなかった。
いつもと同じ風景なのに、何だか皆の視線があたしに向いている様に感じて、ここに居る事すら窮屈で胸が痛々しく感じる。
どうしょう…
夏美に言う?
ううん…いくら友達であってもこんな事言えない。
隼人と寝たなんて…
いつかはバレる時がくる。でも今はどうしても言えない。
だって、もう隼人の事なんか忘れるって言ったのに…
嫌な汗と嫌な思考に浸っている時、ガラッと勢いよく開いたドアに身体が飛び跳ねた。
「毎日、毎日、いい加減にしろよ」
呆れた声とため息とともに吐き出された教師の声に、
「へーい」
と言う呑気な声が聞こえ、あたしはゆっくりとその方向に視線を向けた。
大きな欠伸をしながら教室の中に足を踏み入れてくるのは直司で、ズカズカと入ってきてすぐ自分の席に腰を下ろす。