その手に触れたくて

あたしと直司は同時といっていいほど同じタイミングで、その夏美の声がした方に顔を向ける。

夏美は呆れた顔してあたし達の方へと近付いて来た。


「隼人は?」


来て速攻、話を持ち出す夏美。

その隼人と言う名前に、またどうしょうもない感情が襲ってくる。


「知らねぇよ」

「知らないって?一緒に居たんじゃないの?」

「居ねぇよ。もう何日も会ってねぇし」

「居場所とか分かんないの?」

「さぁ…」

「さぁって何?よく行く場所だよ。そうちゃんちにも居ないしさ、電話だって出ないの?」

「だから知らねぇよ。隼人の監視じゃあるまいし…、…んだよ?」

「隼人の彼女がずっと来てんの。あたしいい加減に疲れるんだけど」



あたしを挟んで、あたしの座っている上で二人の会話が繰り広げられる。

聞きたい訳じゃない。でも自分の身体は正直で、隼人って名前を出されるたび神経は動く。




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