その手に触れたくて

「あー…その内、来るだろ」


直司は別にどうだっていいって言う感じで呟き、そのまま教室から出て行く。


「もぉ…」


夏美は直司の背後を追いながら、深く息を吐き捨て頬を膨らます。

そんな今の状況と、夏美と直司の会話について、あたしは何一つ言葉を掛けられなかった。


夏美はポケットから携帯を取り出し、カチカチとボタンを押した後、耳に当てる。

少しずつ時間が経っていくとともに夏美の顔が曇っていく。


その表情を見てすぐ、誰に掛けているのかはすぐに分かる。



相手は隼人。

一向に出ないのか、夏美はパチンと携帯を閉じてポケットに押し込む。



「美月、行こ」


夏美は不機嫌にそう言って、あたしに背を向ける。

その向けられて進んで行く夏美の背後に、


「行くって何処に?」


そう叫ぶあたしに、夏美は少し驚いた顔をして、あたしを見つめた。


「何処って、購買」

「あ、そっか…」


思わずキョトンとした声を出すあたしに夏美は不思議そうに首を少し傾げ、もう一度あたしに背を向けて歩きだす。

そうだ。今、昼休みだった。

今日は何だか冴えなくて、時間すら分からなくなっている。


もう、帰りたい…


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