その手に触れたくて
「美月…」
暫く経っても返事を返さないあたしに、隼人は小さくあたしの名前を吐き出す。
それと同時に隼人から吐き出された小さな溜息も聞こえた。
その溜息が、面倒くせぇって聞こえるのは気の所為だろうか。
隼人の視線があたしに向けられる。
実際、隼人を見たわけじゃないけど、あたしの目の端のほうで隼人の視線を感じる。
だから、これ以上、面倒くせぇって思われたくないあたしは、ゆっくりその場から腰を上げ立ち上がった。
立ち上がったと同時に、隼人は何も言わずに足を進めて行く。
その背後をぼんやりと見つめながら、あたしは隼人の後を追った。
道路添いに停めているあたしの自転車の横に隼人の原付がある。
隼人は何も言わずに歩きながら原付を動かし、あたしに視線を向けた。
その行動からして場所を変えるって分かったあたしは、隼人と同じく自転車を動かし、ゆっくりと足を進める。
暫く会話がないまま足を進ませて止まった場所は空き地で、その少し奥には潰れ掻けの建物が経っている。
隼人はその空き地の前に原付を止めると、ボロボロになったフェンスを潜り抜けて、ズボンの中からタバコを取り出し火を点けた。