その手に触れたくて

あたしはどうしていいのか分からず、一応自転車だけ停めてフェンスの前で立った。

隼人の口から吐き出される煙と同時に聞こえてくるのは、やっぱり溜息で胸がチクチクと痛みだす。



「美月、」



とうとうその話がきたんだって思うと、あたしの目が無性に熱くなってきたのが分かり、今すぐにでも涙が滑り落ちてくるんじゃないかって思った。


聞きたくない。

聞きたくないよ、隼人の言い訳なんて…


隼人を捕らえてた視界がだんだんと足元まで落ちていく。


「ごめん…」

「……」


ポツリと呟かれた言葉に胸が苦しくなる。


「ずっと謝ろうと思ってた。だけど、ちょっと色々あって学校にも行ってなかったから、美月に言う機会がなくて…」


本当に申し訳ないって感じの言葉とため息に、あたしの目がだんだんと潤んでくるのが分かる。

その潤んだ瞳から何かが頬を伝うまで時間はかからなかった。


滑り落ちてくるのは、熱い涙の一滴で、その涙を見られたくないあたしは自分の手で目を覆う。


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