その手に触れたくて

「暑ッ…。やっと着いたよぉ〜」


夏美のため息混じりの声を耳にしながら、あたしは颯ちゃんちのプレハブを見上げた。


どうしよう…行きたくないよ。

そんなあたしの重い足取りとは裏腹に、夏美の足はスタスタと鉄階段を駆け上がって行く。


周りには無数の原付とバイク。

その原付とバイクに、あたしの目は追ってた。


この中に隼人の原付があるんじゃないかって…でも見るかぎり隼人の原付は無かった。

もしかしたらバイクかも知れない。

けどさすがにあたしも隼人のバイクまでは知らない。

改造してあるバイク。

この中に隼人のバイクがあるかもと思うと、自然的にあたしの足は躊躇する。


でも、


「お〜い。美月、何してんの?早く来なよ」


透き通った夏美の声に思わず身体が少しだけ震えた。

見上げる先には夏美が微笑んであたしに手招きをしている。


そんな夏美にあたしは曖昧に頷き、足を進めた。


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