その手に触れたくて
ベンチに腰を下ろして大空を見上げる。
薄い薄い雲が、ゆっくりゆっくりと気持ちよさそうに進んでいく。
暫く空を眺めていると遠くのほうからバイクのエンジン音が徐々に大きくなって聞こえてくるのが分かり、その大きな音がこっちに近づいて来る。
何気なく振り返った先に見えるのは、さっきまで隣にいた隼人。
メットを被っているから顔なんて分かんないけど、ジーンズと白のTシャツで分かる。
公園に入ってきたバイクはすぐに停まり、そのままメットを取る。
隼人と確実に分かったあたしは、無意識に足が勝手に動いてて隼人とは逆の方向に走ってた。
でも、
「おい、待てよ」
ガシッと隼人に右腕を掴まれたと同時に引き寄せられる。
見上げる先には眉間にシワを寄せた隼人が見下ろしていて、またあたしは視線を逸らしてしまった。
隼人が握っている腕から隼人の温もりが伝わる。
ドキドキと言うか、どうしょうと言うか、訳の分からない衝動に襲われる。
「…逃げんな」
そう呟いた隼人はさっきよりも、あたしの右腕に力を込めた。
でもあたしは空いているほうの反対の手で、隼人の左腕を引き離した。
完全に離れて解放されたあたしの身体はまた隼人に背を向け足を進める。