その手に触れたくて

「美月…ごめん」


隼人に背を向けたままの状態で右腕を掴まれ、背後からどうしようもないため息とともに吐かれた小さな言葉。

そのため息混じりの呟きに、涙が出そうだった。


どうしてそこまで謝るの?

もういいじゃん。終わった事なんだし…



って、思ってても心のどこかでは終わりになんてできないって、もう一人の自分が叫んでいるみたいで、苦しくなってくる。


「美月にどうしても言いたかった。…俺、適当な気持で美月を抱いたんじゃねぇから。…俺、美月が好きだから…だから――…」

「勝手な事、言わないでよ。好きって隼人、彼女いるじゃん…彼女いるのに好きとか言わないでよ!!」


気付けばあたしは振り向いて叫んでた。

本当はこんな事、言うつもりなんて無かった。

隼人が悪い訳じゃない。


あたしも隼人に身を預けたんだから…

見上げる先には申し訳なさそうな顔をする隼人が目に入る。

あたしから目を逸らしため息を吐き出した隼人に、


「…ごめん」


あたしは小さく呟いていた。


< 143 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop