その手に触れたくて

「…一つだけ聞いていい?」

「あぁ」


優しく隼人に後頭部を撫でてもらいながら、あたしは小さく声を出し、隼人はそれに応える。


「別れたのって、あたしの所為?」


ポツンと小さく呟く声に、一瞬だけ隼人の身体がピクッと動いた気がした。

それと同時にあたしの後頭部を撫でていた隼人の手が止まる。


「…は?何言ってんの?」


隼人は戸惑うような声を出し、あたしの顔を覗き込むように少し肩を押し、あたしと隼人の間に隙間をつくる。

少し見上げた先に隼人の瞳を捕える。

その絡み合った視線から思わず目を逸らすと、


「美月の所為じゃない」


そう言って隼人はもう一度、あたしの身体を引き寄せた。

本当は、他にも聞きたかった。


じゃあ、なんであたしなの?

彼女よりなんであたしなの?

彼女のほうが美人なのに…本当にあたしの事が好き?


そう思ってても、この場の雰囲気を壊したくないあたしは、暫くの間、何も言わずに隼人に寄り添ってた。

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