その手に触れたくて
「颯太んちに戻る?」
少ししてから隼人はあたしの耳元で小さく呟く。
涙の所為で目が赤くなってんじゃないかとか、突然出て行って戻れない事もあり、あたしは隼人の胸に顔を埋めたまま横に首を振る。
「じゃあ、今日は送る」
そう言って隼人はあたしの身体を引き離し、うっすら笑みを漏らした後、あたしの頭をクシャっと撫でてから右腕を掴み隼人が乗って来たバイクの方へと足を進める。
薄らオレンジ色に染まりかけた空があたしの心を和らげ、隼人の温もりを身に染みさせる。
隼人の隣に寄り添って歩くのが憧れだった。
夢だった。
今のこの現実が嘘じゃないのかなってくらいに、あたしは隼人に恋い焦がれていた。
そんな愛しい隼人の背後を見てる時だった…
ゆっくり歩幅を合わせながらバイクまで歩いていると、突然隼人はあたしの掴んでいる右腕に力を込めて引っ張り、隼人はあたしを自分の後ろへと隠す。
あまりにも突然の事で、何が何だか分からないあたしは言葉を出す暇もなくて、ただただ隼人を見上げる。