その手に触れたくて

「…あ?何?」


不機嫌な口調のまま隼人は声を出す。


「よくも俺のダチを病院送りにしてくれて」

「だから?」

「明後日、M廃墟まで来い。一人で」


言いたい事を言い終えたのか、男の遠ざかって行く足音が聞こえる。

それに混じって、隼人の舌打ちが微かに聞こえた時、あたしの思考が一気にハッとした。


“この間はどーも”

“俺のダチを病院送りにしてくれて”

“明後日、M廃墟まで来い。一人で”


さっき言ってた男の言葉が頭の中を駆け巡っていく。


え?何?何がどうなってんの?

病院送りって何?



「ねぇ、隼人!!」


あたしは勢いよく声を出し、隼人の前に回り見上げる。

隼人は険悪な表情からゆっくり徐々に柔らかくし、うっすら笑みをつくりあたしの肩をポンと軽く叩く。


「何でもねぇよ」


そう言って隼人はあたしの肩から手を離し、バイクに向かって足を進めて行く。

でも納得できないあたしは、


「何でもない事ないじゃん」


隼人に駆け寄った。


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