その手に触れたくて
怖かった。
正直に言うと怖かった。
あたしは“喧嘩”って言葉が一番嫌い。
この世で一番嫌いな言葉なのかも知れない。
そう思い始めたのは、あたしが小学生の時だった。
中学になったお兄ちゃんは喧嘩に明け暮れて、毎日喧嘩してた。
“喧嘩”って言葉が日常茶飯事になり、高校に入ってからは、あり得ないほどの日々を送ってた。
顔から血を流しながら帰ってくる事もあったし、お兄ちゃんは強いって言われてたけど、そんなの数人相手にだけ。
何十人も束になれば、いくら強くても当たり前に勝てない。
さっきみたいに“一人で来い”って言われて行ったお兄ちゃんは肋骨をやられ血まみれのまま入院した。
だからあたしは焦ってたのかも知れない。
隼人がそんなふうになってほしくないから…
隼人が行ってほしくないから…
隼人がどんな事をしてるのかなんて分かんないけど、喧嘩だけはしてほしくないって…。
「…美月?」
そっと頬に触れる隼人の温もりで意識がハッとし、視線を隼人に向ける。