その手に触れたくて
ゆっくりと自転車が進んでいくなか、あたしは隼人の背に顔をくっつけて温もりを感じてた。
その温もりを感じながら、ふと頭に何かが引っ掛かった。
“ちょっと明け方までダチの所にいて…”
ダチって誰?
隼人が友達の名前を出さない事にあたしは何だか不安になってきた。
名前を出さないのって女?
考えたくもない事が頭を過っていく。
「ねぇ、隼人?」
いてもたってもいられないあたしは、隼人の背から顔を離し少しだけ顔をあげ、隼人を見上げた。
「うん?」
そう言って隼人は少しだけ振り返ってあたしを見た後もう一度、視線を前に戻す。
「ダチって誰?」
「え?」
「だから…、ダチって誰かなって…」
「あぁ…。剛って奴」
そう呟かれてハッとした。
えっ?!剛って、あの“悪”で有名な剛って人?!
ってか、隼人はその人と何してたの?
悪=喧嘩。
としか思えないあたしは、隼人が明け方まで剛って人と喧嘩でもしてたんじゃないかってまで思ってしまった。
思わず言葉を失ったあたしに隼人は気付いたのか、
「ただ飲んでた」
そう言葉を続けた。