その手に触れたくて
その後、あたしと隼人は本当に他愛もない会話をしてから店を出た。
店を出てからショッピングモールが並ぶ駅前をブラブラと歩いている途中だった。
少し離れた所に、颯ちゃんの姿があたしの目に入り、あたしは思わず声を上げた。
「あっ、颯ちゃん」
隣に並んで歩く隼人の腕をポンポンと叩くと、それに反応した隼人はあたしと同じ方向に視線を送る。
「あぁ」
別にどうでもいいって感じの隼人の呟きに、
「声掛けないの?」
と隼人に目線を送る。
「あぁ」
素っ気なく返してくる隼人から颯ちゃんに視線を向けると、颯ちゃんの隣には知らない女の人が一緒にいて、その女の人は颯ちゃんの腕にベッタリと腕を絡めていた。
「彼女かな…?」
颯ちゃんの事なんて全く知らないあたしは、颯ちゃんに視線を送りながら小さく呟く。
そのまま隼人に答えを求める為、視線を返ると隼人は首を傾げたまま、あたしの腕を掴んで颯ちゃんとは逆の方向に足を進めた。
「えっ、ちょっ、隼人?」
あまりにも突然に方向転換する隼人と、遠くの方で女の人と仲良く歩いている颯ちゃんを交互に見ていると、
「…美月」
小さく低い隼人の声であたしはハッとした。