その手に触れたくて

陽が暮れるまでずっと、あたしと隼人は駅近くに並ぶショッピングモールを飽きるくらい歩きつくした。

隼人にとったら苦痛だったのかも知れない。

だけど隼人は嫌な顔一つせず、あたしと歩いてくれた。


夜になって、軽く夕食を食べ、午後9時を迎えた時、隼人が「家まで送る」って言ってきた。


その時点で不安だったのかも知れなかった。

そうじゃなくて、もっともっと先の時点からなのかも知れなかった。


隼人と離れるのが嫌だった。

隼人が何処かえ行っちゃいそうで怖かった。


だから、あたしの最大級のわがままだったのかも知れない…


「美月。…帰るぞ」

「……」


隼人の声はちゃんと聞こえてる。

あたしの耳に届いてる。

隼人の言ってる事も理解できている。


だけど、だけど、足が前に進まない。


「…美月、行くぞ」


そう言ってあたしの手をしっかりと握りしめて隼人は歩き出す。

それに従ってあたしの足も必然的に前へと進みだして行く。


でも――…、


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