その手に触れたくて

必然的に進んで行く足に力を入れ、あたしは踏ん張った。

その所為で隼人は少しあたしの方へ倒れ込む様にして足を止める。


隼人は少し驚いた顔をし、あたしを見降ろす。


「どした?」

「……」

「美月?」

「……」

「おい、美月」

「…ない」

「えっ?」

「まだ帰りたくない」


ボソっと聞こえるか聞こえないくらいの声で小さく呟くと、隼人はその言葉に一瞬だけ眉を顰めた。

だけど、すぐに隼人は表情を元に戻し、深く息を吐く。


「もう帰んねぇと親、心配すんぞ」

「大丈夫」

「いや…けど、今日は帰ったほうがいい」

「何でっ?!」


あまりにも勢いがあった所為か、あたしの声はシンと静まり返った街並みに響く。


「もう遅いから」

「まだ遅くないよ」

「いや…けど、」

「お願い、隼人。もう少しだけ一緒にいて?」


隼人はもう一度、眉を顰め、少しだけ俯いた。

分かってる。

迷惑なのは分かってる。


なんか、ねんどくせぇ女。って思ったかもしんない…


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