その手に触れたくて
隼人が漕ぐ自転車の後ろで隼人の腰に腕を回し、その温もりにあたしは幸せを感じてた。
隼人が身近にいる事が、隼人に触れ合う事が何より、一番幸せだって思えた。
暫くの間、隼人が自転車を漕ぎ続け停まった所は、辺りは微かな電灯が点いてるだけで、薄暗い気味の悪い所だった。
自転車から降り、辺りを見渡すあたしに、
「美月、こっち」
隼人があたしの手に触れた時、隼人の温もりを感じ、少しは安心感に満ちた。
少し歩いた先に見えたのは凄く長い長い石段が一直線に山の上まで続いていて、思わずあたしは息を飲み込んだ。
「も、もしかして、ここ上がるの?」
警戒気味にそう呟くと、隼人は秘かに笑う。
「あぁ。頑張れ」
隼人はあたしの手をしっかりと握りしめ一段一段、階段を踏みしめて行く。
静まり返った空間に、あたしと隼人の足音だけが響く。
それに混じって、あたしの息がだんだんと荒くなっていくのが分かった。
「大丈夫か?」
登りだしてから階段の半分まで来ると、足が疲れたのと息がもたない所為で、あたしの足はピタッと停止してしまった。
膝に手を付き、俯き加減になるあたしを覗き込むように隼人は少し屈む。
「…ごめん。ちょっと待って」
荒れた息とともにそう呟くと隼人は、「あぁ」って言って、あたしの背中を擦ってくれた。