その手に触れたくて

そのまま腕をグッと自分の方に引き寄せると、あたしの頭は必然的に隼人の顔に密着した。


「くっついてると少しはマシかも」

「うん」


本当なら温もりなんて全然かわんないのかも知れない。

だけど、ほんの隼人の些細な事で全身が異様に熱く思えた。

隼人だからなのかも知んない。

触れ合うだけで温もりを感じる。


肌寒さなんて何も感じなかった。



「…月」

「え?」


空を見つめながらボーっとしていると、隼人は小さく呟き、その呟きにあたしは隼人に目を向ける。

目を向けると隼人は腕枕をしている反対側の手を空に差し出し、人差し指を突き出す。


「月」


そう言って隼人の指を辿って目を向けると、くっきりと輝いている月が目に入った。


「あ、本当だ。綺麗だね」

「あぁ。…美しい月。美月」

「え?何?」

「いや…なんか被ってんなぁって」


そう言われて、ちょっとだけ思い出した事がある。


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