その手に触れたくて
「…美月」
「あ、えっ?」
不意に聞こえた隼人の声にあたしは慌てて顔を上げる。
「どした?歩きずれぇ…」
隼人は一旦、足を止めて視線を下に落とした。
その隼人の視線にあたしも視線を落とすと、ガッツリと両腕を隼人の左腕に絡ませ力一杯にしがみ付いている自分の腕に若干ビックリした。
「あ、ご、ごめん!!」
慌てて隼人から腕を離す。
「いや、別にいいけど体重かけすぎ」
「ご、ごめんね。怖くって、つい…」
そう言ってすぐ隼人の密かに笑う声が聞こえた。
視線を少し上げると、隼人はあたしの頭をクシャっと撫で、あたしの手をしっかりと握り締め足を進めて行く。
「え、何?」
「別に…」
未だに笑っている隼人に訳が分からず、あたしは隼人に身を寄せて長い階段を降り切った。
下りてすぐ隼人は自転車に跨る。
その後ろにあたしも跨り、隼人の腰に腕を回し背中に左頬をくっ付けた。
山の上よりかは気温は温かく、そして隼人に身を寄せている所為でもあり、あたしの身体は温かくなる。
そのままあたしは隼人に身を寄せたまま、家まで向かった。