その手に触れたくて
「…ありがと」
自転車から降りてすぐ、あたしは隼人に言う。
「全然。早く寝ろよ」
「うん」
「明日迎えに行くから」
「うん」
「つーか、その前に朝頼むな」
「うん」
あたしは笑みを漏らせながら隼人に頷いていく。
そして隼人も笑みを漏らす。
あたしの頭をクシャっと掻き乱すと、
「じゃあな」
そう言って隼人はペダルを踏みしめた。
「…隼人っ、」
少し進んだ隼人の背中に向かって、叫ぶあたしの声で隼人はキッとブレーキを掛け、顔だけ後ろを向けて振り返る。
「どした?」
「気を付けてね」
「おぅ」
隼人は口元に笑みを作り、軽く手を挙げ、もう一度ペダルを踏んで進みだした。
その隼人の背中が消えるまで、あたしはずっと隼人の背中を見てた。