その手に触れたくて
少し荒れた息とともにキッっと短い音を切らせた自転車のブレーキ音が鳴る。
自転車を停めて籠の中に入れているスクール鞄を取り出し、石段を掛け降りる。
道路添いにある木々の葉がソヨソヨと気持ちよさそうに揺れている。
まるで…、お父さんが喜んでるみたい。
石段を降りた先は数えきれないほどの墓。
墓と墓の間をすり抜けながら、あたしは一角の墓の前で足を止めた。
…――安藤家。
「お父さん。…おはよ」
あたしは小さく声を掛け、手に持っていたユリの花を供えた。
鞄の中からビニール袋を取り出し、中から線香とマッチを取り出す。
マッチに火を点けて2本の線香の先に火を近付けた途端、
「…あっ、」
勢いよく吹いた風に見事にマッチの火は消え、マッチの先からは白い煙が舞い上がっている。
その光景に思わずため息が漏れ、今度は自分の身体で覆うようにマッチに火を点け、線香の先に火を灯した。