その手に触れたくて

「…人の男とってんじゃねぇよ」


目の前で低く吐き出された声と同時に、先輩が吐き出したタバコの煙があたしの顔に纏わうように掛かった。

って言うか先輩がワザとあたしの顔に煙を吹き掛けてきた。


その所為で息苦しい。
目が痛い。


そもそもあたしが隼人をとったって言うの?

だって隼人は別れたって…


「…とったつもりはありません」

「はぁ?!」


自分でもビックリするくらい口が開いてた。

こんな事、言ったら余計に険悪ムードを高めるのに、あたしは気付いたらそう呟いていた。


でも、本当にとった覚えもないし、ただあたしは本当の事を伝えただけであって…

ゆっくり視線を上げると案の定、先輩はあたしに鋭い目付きを叩きつけていて、ゆっくりとタバコを口へと運んで行く。

それに、さっきから気になっていたけど抱え込む鞄から微かに伝わってくる振動。

きっと、隼人があたしを探してる。


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