その手に触れたくて
暫くしてお兄ちゃんは立ち上がると、もう一度仕事に行くのか作業着を着始めた。
「出掛けるって仕事なの?」
お兄ちゃんの姿を見て問い掛けるあたしに、
「あぁ。戸締まりちゃんとしろよ」
そう言ってテーブルに置いてあるタバコと財布とキーケースを掴み取り、お兄ちゃんは玄関に向かって歩いて行く。
ガチャっと、玄関のドアが閉まる音がすると何だか無性に淋しくなった。
何でだろ…。
どうしてだろ…。
一人になる事は何回かあるのに何で今日はこんなにも淋しくなるんだろう。
ソファーに座って両膝を抱えたまま顔を埋める。
考えるのは今日あった出来事で、それを思い出すたびに手首が痛く感じる。
その出来事を遮るように軽く首を左右に振り、テレビのボリュームを少し上げた。
「はぁ…」
こうやってため息をつくのも今日で何回目だろう。つきたい訳でもないのに、あたしの口からは自然に零れていた。