その手に触れたくて
「手首」
もう一度告げられた言葉に“どうしよう…”と思いながら何故か隠さなくてもいいのに右手で手首を塞いだ。
「…っと、転んだ」
「は?転んだ?」
転んで手首を怪我なんかする訳ないのに思わずそう言ったあたしに、お兄ちゃんは唖然とする。
「…うん」
「お前どんな転け方してんだよ。…どんくせ」
クスクス笑ったお兄ちゃんは本当に馬鹿にしたように笑った。
でもそれでいい。こんな馬鹿みたいな言い訳が通じたのなら、それでいい。
それを信じてくれるだけで今のあたしは凄く安心できた。
お兄ちゃんが仕事に出掛けた後、ハンバーグ弁当を食べた。
食べたと言っても全部は食べきれなかったから少しだけ残した。
食べ終わった後、自分の部屋に行き、何気なく開いた携帯に思わず目を見開いた。
「うわっ…」
着信履歴から溢れるのはママの名前。それとママの名前と混じって隼人の名前まで沢山入ってた。