その手に触れたくて
「初めに言っとく。俺に隠すな嘘はつくな」
「……」
そう言った隼人に、相沢さんの顔色が悪くなっていくのが分かった。
眉を寄せて今まで以上に怒をみせる隼人の前で相沢さんは口を紡ぐ。
「言え。説明しろ。何の事かわかんだろうが」
「……」
「俺に嘘は通用しねぇ。見れば分かる」
「……」
そう言った隼人に何だか目眩がしそうだった。
隼人にはバレてる。やっぱり隼人にはバレてる…
でも、これは相沢さんが悪いんじゃない。相沢さんが責められる事なんかじゃない。
「言えよ。…お前、俺を怒らす気か?」
隼人の怒りがだんだんと荒れてくる。隼人を掴んでいる腕に力が入ってくるのが分かる。
“おい”とか“なぁ”とか隼人の言葉が落ちてくるのと同時に目の前にいる相沢さんの口が密かに動き出したのが分かり、あたしは咄嗟に首を横に振ってしまった。
振ってしまった事によって目の前の相沢さんの口がピタッと止まる。
それと同時にゴォン――…と鈍い音が廊下に響き渡った。